かなりオーバーなタイトルですが、今から18年前には体一つで軍艦島まで泳いで渡り、接近する台風を待ち受けて撮影したことがありました。泳いで渡ると言う方法は、軍艦島の中から台風を撮影する為に選択した最終手段でもあったのですが、この決定を下す以前には手作りのラジコンカメラを使用して台風撮影に挑んだこともありました。
台風接近時にその姿を撮影する場合、ラジコンカメラの設置場所が重要になりました。潮を打ち上げた場合に迫力の絵が撮れる場所は幾つかあったのですが、島の中を徘徊する者も多い時代の為、設置したラジコンカメラに悪戯されない場所を選ぶ必要がありました。最終的には上がることが難しい51号棟屋上の水槽横に決めました。
カメラのファインダーを覗いて構図を決定した後は、固定すべき位置に印を付けました。ラジコンカメラをアパートへ固定する為にはコンクリートアンカーの使用が一番で、10本以上の穴を開けました。穴開けにはコンクリートドリルを使用したのですが、真夏の炎天下での作業はきつく、体がクタクタになりました。
大きな台風が来た場合、石ころまで打ち上げる可能性も考え、分厚い木材でケースを作りました。
ケースは雨水などが入らない様にシリコン樹脂で密封するのですが、仮に入った場合でもカメラ本体を濡らすことが無い様に高い位置に固定。裏ふたにも工夫を加え、2重の安全を図る様にしました。ケースに内臓したカメラはコニカFS-1。握り易いグリップとフイルムのオートローディングなど、当時としては結構先進的なカメラでした。使い込んだお陰で外装は剥げ、見た目も悪くなりました。同機種と姉妹カメラを何台も持っていたこともあり、捨てる覚悟で使用しました。
ラジコンカメラを設置してもすぐに台風が来るとは限らず、1−2ヶ月は放置することになると思いました。長期間ラジコンカメラを放置した場合、電池が自然消耗して電圧が下がる可能性もありました。なにも問題が起きなければ良いのですが、肝心なときにカメラが動かなかったでは何のために設置したのか分からなくなってしまいます。このため、内臓電池とは別に充電式電池も併用。太陽電池で充電可能にすることで、肝心なときに必要な電力を使用できる様にしました。
裏ふたには運搬用の取っ手を取り付けています。本体と蓋の合わせ目は、シリコン樹脂で塗り固めました。
レンズは、濡れることも考えて置く必要がありました。レンズ自身には撥水コート処理を行い、レンズからカメラ内部に通じる僅かな隙間は樹脂で埋めました。夏場の強烈な太陽熱でケース内部の温度が上がらない様に表面をステンレスシートで覆いました。
シャッターを半押しにしない限り電力の消耗は無いとは思いましたが、長期間放置した場合にはどうなるか確信が持てなかったので太陽電池も併用しました。
18年前の写真なのでかなり若い姿で写っています。水槽横に固定しているのは、ラジコンカメラを作動させる為のコントロール装置です。下水道配管の塩ビパイプを加工し、その内部に重要部材を収めています。
コントロール装置の中には、送信された電波を受信するトランシーバーやコントロール基盤を納めていますが、通電したままにしておくと1-2ヶ月後には電源がダウンする可能性がありました。その為、台風の風が吹き始めた時にのみ電源が入る工夫を考えました。この為には水量センサーを逆利用。強風で紐が張った場合に軽量のマグネットが持ち上がり、スイッチが入る様にしました。風には強弱があるので、一旦スイッチが入った後は設定した時間を経過しない限り電源が落ちない様にしました。また、風圧センサーとも言えるものがオンになる度にタイマーをリセットする構成にしたので、風の強弱に関わらず台風で大荒れの間は電源が不用意に落ちない様にしました。
以下、コントロール装置の中に納めていた中身です。塩ビパイプの中にスッポリ入るサイズに木材を加工し、必要なものを収納しています。トランシーバーはアマチュア無線用のもので、高島と池島間の通信にも使用出来たものです。DTMF信号でコントロールすれば、幾つもの制御が出来たのですが、島の中の風音をモニターし、シャッターが切れたことを確認出来れば良かったので、アナログ制御の方式で行くことにしました。
トランシーバーには専用のコントロール端子など無いので、イヤホン端子から出力される音声信号と、電波を受信した時に発光するLEDの光を組み合わせて行う様にしました。
イヤホン端子の横にはLEDランプの光を受けるフォトトランジスターを埋め込み、信号のカップリングを行う様にしました。
電源は12V4Aのニッカド電池を2組使用し、長期間放置にも耐えられる設計にしました。※ニッカド電池は自己放電が激しいので、容量自体が大きくても当てにはならなかったのですが・・。
トランシーバーから出力される音信号と光信号を処理する基盤の組み込み状況です。
軍艦島に設置した後にも現地で動作確認が出来る様に、幾つかのスイッチとランプを組み込んでいます。二度と使用する可能性は無いのですが、折角の力作なので捨てられず、軍艦島から持ち帰った後も倉庫に保存しています。
回路の設計図です。清書すればまともな図面にはなるのですが、当人だけが分かれば良く、面倒なのでこんな形で残す場合が殆どです。設計自体は、入力部から書き始めることもあれば、出力部から戻る様に書き進めて行く場合もありました。部分的には有り触れた回路を使用することもありましたので、面倒な場合には書き出さないこともありました。大雑把な構成は頭の中にありましたが、現実には正しく動作する定数を見つける作業も必要になりました。
装置は2週間位で完成。軍艦島へ設置後、高島から信号を送っても返信が無いので電源は入っていない状態と確認できました。本番では、台風接近時に風圧センサーが期待通りに作動。コントロール基盤にも電源が入ったことで、高島から送った信号にも反応する様になりました。 高島側からは軍艦島内部の風音を聞く為の信号とシャッターを動作させる為の信号を個別に送信することが出来ました。装置自体は正常に機能したのですが、肝心な時には軍艦島の姿が見えなくなったので、シャッターを切る瞬間の判断が出来ませんでした。何時まで経っても視界が晴れる様子は無かったので、台風が過ぎ去る前に島の姿は見えないままにシャッターを切り始めました。フイルム1本分のシャッターを切っても良かったのですが、信号を送った回数だけシャッターが切れたか確認することにしました。 台風が過ぎ去った後に機材を回収し、フイルムの現像を行いましたが、期待した迫力映像は写っていませんでした。ただ、信号を送った回数分の映像はフイルムにしっかり記録されていました。折角作ったラジコンカメラも残念な結果になりました。やはり当人が現場に居ないことには迫力映像を撮るのは無理と確信する様になり、台風接近時には瀬渡し船で上げてもらえないこともあったので、泳いで渡ったり、アクアスクーターを使用する様になりました。 |